一瞬で大学剣道部時代
夕方五時に携帯電話がブルブル、ブルブルと小刻みにテーブルの上で踊っている。
仕事も一段落し、一息ついてメールでも確認するかと思った時だっただけになんか良いタイミングと思って携帯を覗くと二つ上の先輩からの電話だった。
その先輩とは卒業してから今でも仲良くさせて頂いているし、限りなくたくさんお酒も飲ませて頂いている。
大好きな先輩の中でもトップクラスの良い先輩だけに躊躇いもなく『こんにちは』と明るく携帯の先輩に挨拶をする。
どういう訳だか先輩と携帯で話す時は座っててもスッと立って話したり、頭を下げておじぎをしてしまう。
誰にでも経験あると思うけど、電話だから見えないのにこの人と話す時はきりっとしてしまうこと。
そして電話の先からは『よ、元気かい!今いいか?○×△□・・・・』と後半何言ってるか分からない日本語でなんか言ってる。
でも付き合いも30年を超えると大体何を言わんとしているかわかる。
そして一通りの半分意味不明な会話も無難にこなすと『今日さ、同期二人と飲むから一緒に来ないか?』と言う。
同期で飲むなら二つ下の俺は関係ないんじゃないかなぁと思って最初は丁寧にお断りをしたのだが、『良いんだよ、来いよ、久しぶりに先輩に会いたいだろ?』そう聞かれて『いや別に』とは沢尻エリカのようには私は言えない。
数ヶ月前にも別な事で誘いがあった時はお断りをした。
今回は最初の半分意味不明な会話の中で『今日は稽古あるの?』と聞かれ『今節電で稽古できないんです』と時間が空いていると言ってしまっていただけに、用事がありますとも言えない。
店が終わってから渋谷に行くので8時近くなってしまいますというと、丁度良いね、俺たち先に飲んでいるから。
何が丁度良いのかわからないけど大好きな先輩だし行きますと電話を切る。
電話を切ってから少し頭の中に「ためらいの湯気」が湧き上がり始めてきた。
30年ぶりにお会いする二つ上の先輩、もちろん名前はしっかり記憶しているけど顔はどんなだったっけ?
その先輩たちとの思い出って何だったっけ?
私の記憶の中では、怖い、偉大な先輩というイメージ。
今では考えられないと思うが、30年前の大学剣道部というのは軍隊みたいといっても良い過ぎではなく、一年生は奴隷のような位置で、二年生はその奴隷を調教する人間、三年生と四年生は神様という構図になっている。
普段は直接会話することはないし、近くにいる時は緊張してた。
ほんの些細なミスでも誰か一人がやると全体責任と称して、かなり厳しいこともあった。
まぁ、それは剣道部だけのことではなく大体の運動部はこんなことは当たり前となっていたから、今なら大問題だろうけどその当時は親も知ってても体育会の部活に入ると言うことはそのくらい当たり前と思っていた。
だから大学時代は1歳違うだけでえらい違いを感じていた。
そしてその記憶はいまだに残っている。
まぁ、いじめや拷問と言うことでもないから、過ぎてしまった今は良く乗り越えたなぁと懐かしささえある。
でも、長い年月が過ぎても部活の先輩はやはり身引き締まる。
もっと言ってしまうと二つ上だと直接関わりがないから逆に私のこと覚えていなかったら場違いの空間に行ってしまうのではと考えが浮かぶと、「ためらいの湯気」が「ためらいの白い煙」のように濃くなってきた。
でも覚えてなくても水割り作り係りになれば良いかと考えながらお店に到着。
そして、店に入るなり『おおお、久しぶり』と声をかけて頂き深々と頭を下げて席に座ると、一瞬にして32年前の学生時代のことがパラパラパラと音を立てて蘇ってきた。
『かわってないなーー』と先輩から先に気を使って頂き、会話が始まり二杯目の水割りを飲み干す頃にはとっても楽しくなってきた。
少し前まで妙な緊張感や場違いや覚えてなかったら・・・・、なんて考えていた「ためらいの火柱」がすでに消え、今は楽しい青空になっている。
そして次から次にと大学時代の話しが出るとなんか学生時代に戻った気分だし、お酒も入ってきたので少し会話も柔らかくなって、その当時の後輩の気持ちなど話したら『ははは、そうだろうな、悪かったな』なんて笑ってくれた。
人の記憶なってあてにならないとよく言うし、私なんか昨日の食事でさえ何食べたか忘れる時がある。 別な意味で危ないかな?
人の名前なんか何回聞いても覚えられないとか、本当に自他共に認める脳みそツルツルなのに、この時代の事は本当に良く覚えているし、先輩たちも本当に記憶が鮮明なのはそれだけ、その時代真正面から剣道部に向かっていたと言う証だと感じた。
たくさん飲んだかもしれないけど(いつもよりは少ない)、やはり緊張の中では泥酔は出来なく、記憶もしっかりして帰ってきた。
朝起きて娘が『昨日はどうだった?』と聞いてきた。
なぜ飲み会のことを聞いてきたのかは、行く前に妙な「ためらいのため息」を私がしていたからだ。
たいがい飲みにいく時は最高の喜びみたいにしている私が、いつもと違う雰囲気をかもし出していたから少し心配してくれたのだ。
『覚えててくれたし、とっても楽しかったし、やっぱり部活のつながりって一生ものだね』と返したら、笑顔で『それは良かったね』と言ってくれた。
どっちが親だかわからない。
なんとも優しい娘だ。
それにしても何話しているか半分しか理解できない先輩は奄美大島出身だから酔うともっとわからなくなるけど何でも熱く力説をする。
昨日も一つこんな話しをした。
奄美大島にはハブがたくさんいるから退治するのに島民が考えてマングースをたくさん放せばハブを退治してくれると思い、放したらマングースは繁殖力がすごくて増えすぎてしまい、天然記念物のウサギや鳥を食べてしまうので今度はマングースを駆除した。
でもハブは全然減らなかった。
これはどういう事だかわかるか?
と私に質問するけど、私の答えなど待たずにそれはなと自分勝手に話しは進む。
教えてやろう、答えはOLとキャバクラのママなんだよ。
なんだそれ? それが答え?
今の問題はなんでハブ退治にマングースを放したのに捕まらなかったかと言う問題なのに、誰が女性の好みを聞いているんだと心で思った。
でも、やっぱり突っ込まずにはいられず『先輩大丈夫ですか?』と言うと説明をしてくれた。
ハブとマングースが戦えばマングースの方が勝つけど、夜行性動物と昼間活動する動物ではかち合わないからハブはやられないし、他に食べられる動物がいるからわざわざハブを取らないとわかった。
なんともおおらかな奄美大島の人の考えだ。
マングースはハブが大好物だと思っているけど、それは観光のショーとして人間が仕掛けたものだと言うことをすっかり忘れていた。
もっと言ってしまえば、マングースは使命感を持って危険なハブ退治などはしない。
そしてその説明をした後、OLは昼間働く、キャバクラのママは夜働くから合わないだろ、なかなか良い例えだろと完全勝利なドヤ顔の先輩。
なんか、わさびと醤油をつけないでで寿司を食べたみたいな、中途半端な気持ちだけど、もう納得しないと話しは延々と続きそうだから納得顔した。
私はこんな先輩が大好きです。
仕事も一段落し、一息ついてメールでも確認するかと思った時だっただけになんか良いタイミングと思って携帯を覗くと二つ上の先輩からの電話だった。
その先輩とは卒業してから今でも仲良くさせて頂いているし、限りなくたくさんお酒も飲ませて頂いている。
大好きな先輩の中でもトップクラスの良い先輩だけに躊躇いもなく『こんにちは』と明るく携帯の先輩に挨拶をする。
どういう訳だか先輩と携帯で話す時は座っててもスッと立って話したり、頭を下げておじぎをしてしまう。
誰にでも経験あると思うけど、電話だから見えないのにこの人と話す時はきりっとしてしまうこと。
そして電話の先からは『よ、元気かい!今いいか?○×△□・・・・』と後半何言ってるか分からない日本語でなんか言ってる。
でも付き合いも30年を超えると大体何を言わんとしているかわかる。
そして一通りの半分意味不明な会話も無難にこなすと『今日さ、同期二人と飲むから一緒に来ないか?』と言う。
同期で飲むなら二つ下の俺は関係ないんじゃないかなぁと思って最初は丁寧にお断りをしたのだが、『良いんだよ、来いよ、久しぶりに先輩に会いたいだろ?』そう聞かれて『いや別に』とは沢尻エリカのようには私は言えない。
数ヶ月前にも別な事で誘いがあった時はお断りをした。
今回は最初の半分意味不明な会話の中で『今日は稽古あるの?』と聞かれ『今節電で稽古できないんです』と時間が空いていると言ってしまっていただけに、用事がありますとも言えない。
店が終わってから渋谷に行くので8時近くなってしまいますというと、丁度良いね、俺たち先に飲んでいるから。
何が丁度良いのかわからないけど大好きな先輩だし行きますと電話を切る。
電話を切ってから少し頭の中に「ためらいの湯気」が湧き上がり始めてきた。
30年ぶりにお会いする二つ上の先輩、もちろん名前はしっかり記憶しているけど顔はどんなだったっけ?
その先輩たちとの思い出って何だったっけ?
私の記憶の中では、怖い、偉大な先輩というイメージ。
今では考えられないと思うが、30年前の大学剣道部というのは軍隊みたいといっても良い過ぎではなく、一年生は奴隷のような位置で、二年生はその奴隷を調教する人間、三年生と四年生は神様という構図になっている。
普段は直接会話することはないし、近くにいる時は緊張してた。
ほんの些細なミスでも誰か一人がやると全体責任と称して、かなり厳しいこともあった。
まぁ、それは剣道部だけのことではなく大体の運動部はこんなことは当たり前となっていたから、今なら大問題だろうけどその当時は親も知ってても体育会の部活に入ると言うことはそのくらい当たり前と思っていた。
だから大学時代は1歳違うだけでえらい違いを感じていた。
そしてその記憶はいまだに残っている。
まぁ、いじめや拷問と言うことでもないから、過ぎてしまった今は良く乗り越えたなぁと懐かしささえある。
でも、長い年月が過ぎても部活の先輩はやはり身引き締まる。
もっと言ってしまうと二つ上だと直接関わりがないから逆に私のこと覚えていなかったら場違いの空間に行ってしまうのではと考えが浮かぶと、「ためらいの湯気」が「ためらいの白い煙」のように濃くなってきた。
でも覚えてなくても水割り作り係りになれば良いかと考えながらお店に到着。
そして、店に入るなり『おおお、久しぶり』と声をかけて頂き深々と頭を下げて席に座ると、一瞬にして32年前の学生時代のことがパラパラパラと音を立てて蘇ってきた。
『かわってないなーー』と先輩から先に気を使って頂き、会話が始まり二杯目の水割りを飲み干す頃にはとっても楽しくなってきた。
少し前まで妙な緊張感や場違いや覚えてなかったら・・・・、なんて考えていた「ためらいの火柱」がすでに消え、今は楽しい青空になっている。
そして次から次にと大学時代の話しが出るとなんか学生時代に戻った気分だし、お酒も入ってきたので少し会話も柔らかくなって、その当時の後輩の気持ちなど話したら『ははは、そうだろうな、悪かったな』なんて笑ってくれた。
人の記憶なってあてにならないとよく言うし、私なんか昨日の食事でさえ何食べたか忘れる時がある。 別な意味で危ないかな?
人の名前なんか何回聞いても覚えられないとか、本当に自他共に認める脳みそツルツルなのに、この時代の事は本当に良く覚えているし、先輩たちも本当に記憶が鮮明なのはそれだけ、その時代真正面から剣道部に向かっていたと言う証だと感じた。
たくさん飲んだかもしれないけど(いつもよりは少ない)、やはり緊張の中では泥酔は出来なく、記憶もしっかりして帰ってきた。
朝起きて娘が『昨日はどうだった?』と聞いてきた。
なぜ飲み会のことを聞いてきたのかは、行く前に妙な「ためらいのため息」を私がしていたからだ。
たいがい飲みにいく時は最高の喜びみたいにしている私が、いつもと違う雰囲気をかもし出していたから少し心配してくれたのだ。
『覚えててくれたし、とっても楽しかったし、やっぱり部活のつながりって一生ものだね』と返したら、笑顔で『それは良かったね』と言ってくれた。
どっちが親だかわからない。
なんとも優しい娘だ。
それにしても何話しているか半分しか理解できない先輩は奄美大島出身だから酔うともっとわからなくなるけど何でも熱く力説をする。
昨日も一つこんな話しをした。
奄美大島にはハブがたくさんいるから退治するのに島民が考えてマングースをたくさん放せばハブを退治してくれると思い、放したらマングースは繁殖力がすごくて増えすぎてしまい、天然記念物のウサギや鳥を食べてしまうので今度はマングースを駆除した。
でもハブは全然減らなかった。
これはどういう事だかわかるか?
と私に質問するけど、私の答えなど待たずにそれはなと自分勝手に話しは進む。
教えてやろう、答えはOLとキャバクラのママなんだよ。
なんだそれ? それが答え?
今の問題はなんでハブ退治にマングースを放したのに捕まらなかったかと言う問題なのに、誰が女性の好みを聞いているんだと心で思った。
でも、やっぱり突っ込まずにはいられず『先輩大丈夫ですか?』と言うと説明をしてくれた。
ハブとマングースが戦えばマングースの方が勝つけど、夜行性動物と昼間活動する動物ではかち合わないからハブはやられないし、他に食べられる動物がいるからわざわざハブを取らないとわかった。
なんともおおらかな奄美大島の人の考えだ。
マングースはハブが大好物だと思っているけど、それは観光のショーとして人間が仕掛けたものだと言うことをすっかり忘れていた。
もっと言ってしまえば、マングースは使命感を持って危険なハブ退治などはしない。
そしてその説明をした後、OLは昼間働く、キャバクラのママは夜働くから合わないだろ、なかなか良い例えだろと完全勝利なドヤ顔の先輩。
なんか、わさびと醤油をつけないでで寿司を食べたみたいな、中途半端な気持ちだけど、もう納得しないと話しは延々と続きそうだから納得顔した。
私はこんな先輩が大好きです。
2011-06-03 22:20
nice!(2)
コメント(2)
トラックバック(1)
心底共感できるお話でした。
学生時代の先輩後輩の関係は永遠ですね(笑)
by kaneyan (2011-06-04 01:20)
本当は集合の事を書いたのですが、やはりリアル過ぎてしまいあえて全部載せませんでした。
剣道はふだんでもあざが絶えないけど、そうでない所にもかなり色々な所にも増えました。
本当に今でも先輩には話す時には緊張しています。
by 義風 (2011-06-04 23:06)